ラサラス女神綺譚

第10話 リヴァイA

 

 

 俺は、俺の妃にはアリアしか考えていない。もしもアリアがどうしても駄目だというなら、一生独り身でいるつもりだ。だが、やっぱり本心としてはアリアをもっと愛したいんだ。今の関係をもっと昇華させたいんだ。

 アリアは見ての通りの石頭で、こうと決めたら誰に何と言われようが絶対に自分の道を行く女だ。そうじゃなきゃアルファルドから一人で帰還して、士官学校に入って今の地位に上り詰めることなんて出来なかっただろうけど。でも、だからこそ俺は困っているんだ。アリアは先日の舞踏会で、「自分は一生結婚しない」と言った。そこを何とか譲って欲しいのだけど、俺には残念ながらこれ以上の知恵がない。こんなときこそ頼りになる兄上、ガウェインに助言してもらおうと、俺は兄の執務室を訪れた。

 緑の絨毯の敷かれた廊下には、一筋の明かりが漏れていた。ガウェインの執務室からだ。夜遅いからもしかしたらもう寝室に下がったかもしれないとも思っていたが、どうやらまだ起きているようだ。・・・と、中から誰かの声がする。

「悪いな、ガウェイン。ちょっと話したいことがあって。も、もしもう寝るなら明日にするけど!」

「大丈夫、もう少し仕事してから寝るつもりだったから。・・・そこら辺に適当に腰掛けて。何か飲む?」

「いや、いいよ。すぐ帰るから」

 この透き通った可愛らしい声はアリアだ。こんな夜中に何の用だろう。

「それで、話って何?」

「・・・そ、その・・・・・」

 アリアが珍しく口ごもっている。いつもは報告することがあればテキパキと済ましているのに。

「あ、あの新しく近衛隊に入ったスヴェンのことなんだけど、今度シュルマに行く時に同行させたいと思って」

「うん。彼にも経験を積んで貰わないといけないからね。」

「そう。そうなんだ。それで・・・」

「アリア。本当にそんな話をしに来たの?わざわざこんな夜に、そんな恰好で?」

 一体どんな恰好なんだ。

 しかしアリア、いつものような歯切れの良さがない。何か悩み事でもあるのだろうか。それも俺でなくガウェインに相談しようとしている辺り、かなり込み入った事情なのだろうか。・・・ていうよりも。これまで俺はあいつの親友の座にいて、何でも相談し合える間柄だと思っていたのに。ちょっとショックだ。

 少しの沈黙が流れ、その後ガウェインが言った。

「リヴァイの事で来たんだろう?」

 突然自分の名前を出され、体がビクッと動いた。危うく扉にぶつかるところだった。

「・・・アリア、その恰好で足組むのやめてくれない?目のやりどころに困るから。」

「ああ、ごめん。癖でつい・・・」

 もう一度言う。一体どんな恰好なんだ。

「それで?何なの?まぁ、大体は分かるよ。弟が随分強引なことをして悪かったね。」

 強引だったとは自分でも自覚しているが、お前だって俺を後押ししてくれたじゃないか。舞踏会のドレスについては、ガウェインの入れ知恵だったじゃないか。

 アリアは兄の言葉を否定せず、苦笑しているようだ。

「はは。・・・その、ガウェインはどう思う?」

「どうって?君とリヴァイの事は、ずっと前からくっ付けばいいのにと思ってきたけど、そういうことが聞きたいのかな?」

「そ!そんな・・・」

 アリアが取り乱しているようだ。婚約反対だと言って欲しかったのか?

「・・・聞き方を変えよう。ガウェイン、お前は私の事をどう思っている?」

「それは難しい質問だね。」

「私はガウェイン、お前のことを何よりも誰よりも大切に思っている。私の役目はお前を守り、サポートすることだ。ザニエ奪還後、お前に誓った思いは今も変わらず胸の中にある。」

「あー・・・そうか。アリア、君が言いたいことが分かった気がするよ。」

 ガウェインの椅子が軋む音がした。

「君は、結婚したら僕のことを守れなくなると思っているんだね?忠誠を反故にしてしまうと。しかも、僕がリヴァイとくっ付けばいいなんて言ったから、自分は僕に頼りにされていないんじゃないかとも思ったんだね?」

 アリアの返事はない。どういう表情をしているかも、扉を挟んで立っている俺には分からない。

「心配しないでアリア。僕だって君のことを大切に思っているよ。僕がこの国を背負う立場になった時、重要な補佐役として傍にいて欲しい。だからこそ、リヴァイと結婚して 2 人で一丸となって僕を助けて欲しいのだけどな。君が結婚することにしたからといって、忠誠心がなくなったなんて思わない。相手がリヴァイなら尚更だよ。逆に聞くけど、アリアはリヴァイとの結婚をどう思っているの?」

 ま、まさかこんな形でアリアの本心を聞く機会が訪れるとは。でもこれって盗み聞きなわけだし、ちょっと胸が痛む。それでも好奇心には勝てない自分の精神力の低さがなんとも憎い。

「ガウェインやリヴァイの立場であれば、婚姻に最も必要なのは寵愛ではなく同盟。そういう意味では、ガウェインの治世を心から望む私は候補としてあり得ると思う。・・・あいつに薦めたアークツルスの姫よりも良いと思う。政治的にはそれだけ考えていればいい。いいんだけど、・・・」

 「いいんだけど、」何だ?何があいつの行動を制限しているというんだ?

 間を空けて搾り出された言葉は、想像とは全く違ったものだった。

「私は、リヴァイが好きなんだ。大好きなんだよ。」

 心の中から搾り出すような声は切なく、きっと目の前で言われたらそのまま抱きしめてしまいそうだ。

「・・・だったら同盟も寵愛も両方あるってことでとっても良いんじゃないの?」

「駄目なんだよ!」

 アリアが声を荒げた。

「駄目なんだよ。・・・ 10 年以上リヴァイと一緒にいて、本当に本当に、あいつのことが大好きなんだ。きっと、もうこの思いは一種の愛なんだ。だからこそ、あいつには誰よりも幸せになってもらいたいんだよ。そうじゃなきゃ、あいつの親友として私が困る。」

 『あいつ』、つまり俺の親友として。

 ガウェインが困ったように笑った。

「僕の口から言うのもなんだけどさ、リヴァイにとって君と結婚することは凄く幸せな事だよ?」

「ガウェインがそう思っていても、それを私はリヴァイの口から聞いたわけじゃない限り、あいつの考えとして受け入れることは出来ない。それに私は兵士だ。いつ死ぬかも分からない。そんな女をあいつに嫁がせるなんて、許せない。ちゃんとリヴァイの子を産んで、最期まであいつの傍に寄り添える女じゃないと嫌だ。」

「リヴァイの子なら君が産めばいいと思うけど。」

「・・・今まで一度も言わなかったけどさ。」

 声のトーンが落ちた。

「なに?」

 またアリアが口ごもる。

「・・・アルファルドにいた頃、幽閉されていた城の城主の息子に私は嫁がされる予定だったんだ。」

「それは初耳だね。」

「ただ嫁がされるのならまだマシだが、 10 歳の頃、そいつから直接言われたんだ。その、わ、私は愛玩用の奴隷であり、子を産む機械だというような事をだ。母上が最期に「 13 までにはラサラスへ帰還しろ」と仰ったのも分かる。だからそれで、その・・・私は自分の婚姻とか、自分が子を産むということに抵抗があるんだ。」

「・・・僕の妻のエリザも愛玩用の奴隷であり子を産む機械なの?」

「違う!そうじゃない!だってガウェインもエリザも、お互いを愛し合っているじゃないか!全く違う!」

「では、僕の弟が君の事を「そう」見ているとでも?」

「それも違う!リヴァイはそんな事考えるような奴じゃない!確かに口は悪いけど、頭もよく回るし細かい気配りも出来るし、優しいし頼りになるし剣の腕もそこそこ強いし!あいつ以上に信じられて好きになれる相手はいない!」

 咄嗟にアリアの口から出た言葉は、全部俺を褒める言葉ばかり(一部例外ありだが、それは耳を通り抜けていったのでなかったことにする)。そんなに高評価だったなんて知らなかった。だっていつも、あいつは俺につっけんどんだし。ちょっと照れる。いや、かなり照れる。

「ちょっと妬けるなぁ。」

「い、いや!ガウェインのことも当たり前に好きだ!でもあいつとお前じゃ関係が全然違うし

「はは、分かってるよ。」

 ガウェインも俺の兄上なだけある。いや、あの母上の子なだけある、と言うべきか。見た目は父上似で優しそうな顔をしているくせに、人をからかうことを好んでいる。多分、俺より性格が捻じ曲がっている。

「もういいよアリア。君がリヴァイをどう思っているか、それはあいつに直接言ってやった方が早い。」

 再び椅子の軋む音がしたかと思うと、ガウェイン(おそらく)の足音が近づいてきた。俺は頭がいっぱいで突然のことに動く事が出来ず、間抜けに突っ立ったまま扉を開かれてしまった。アリアと目が合う。ああ、そうだろうな、びっくりするよな。

「リヴァイ。僕の補佐をするんだろう?だったら、アリア 1 人くらい説得できなくてどうする?」

 悪餓鬼のような悪どい笑みを浮かべ、ガウェインが言った。・・・分かっているさ、そんなこと。

 金色の髪を揺らし、次はアリアの方へ向く。

「アリア。僕は君が弟と共に僕の補佐をしてくれることを願っている。僕は君を未来に連れて行きたい。君がこれからも僕に忠誠を誓ってくれるというのなら、障害など 2 人で乗り越えて来い」

 再び振り向いたガウェインは、いつもどおりニッコリと笑った。

「というわけさ。あとはリヴァイ、君が聞いてあげて。僕はもう寝るから、部屋の明かりだけは消しておいてくれ。それと、仮にも僕の執務室なんだから変なことはしないようにね。」

 ・・・出来るわけないだろう。

 きっと、ガウェインは俺が盗み聞きしていることを承知したまま、ここまで話をしたのだろう。我が兄ながら、ずるがしこいというか、なんというか・・・。

 仕方なく部屋に入り、アリアの隣に座る。・・・確かにアリア、凄い恰好だ。胸元が大きく開いたネグリジェ。胸の下のリボンを1つ解いただけで、すぐに脱げてしまいそうなデザインだ。リボンの下からは布が分かれ、白い足が覗いていた。そもそも布が薄く、全体的に肌が透けている。多少の胸の谷間であったら有難くガン見させて頂くのだが、ここまで色っぽい姿、多分ずっと見ていたら無意識のうちに手が出てしまうだろう。

「・・・いつもそんな寝間着で寝てるの?」

 目を逸らしながら、アリアに聞いた。

「・・・エリザがくれるんだよ。着ないと怒るから、仕方なく」

 アリアも目を逸らしながら言った。

 エリザ。あいつ、ことあるごとにアリアに女性の恰好をさせようとしているが、誰の目にも触れないような寝間着ですら侵蝕しようとしているのか。舞踏会の時はとても助かったけど、・・・いや、今日のこれもなかなか良い。ありがとう。

 ふと、アリアが俺の名を呼んだ。

「リヴァイ。さっきの話、ど・・・どこから聞いていた・・・?」

 アリアの顔が真っ赤だ。下ろされた髪の間から覗く耳も、真っ赤になっていた。

「・・・おそらく最初から。お、俺もガウェインに用事があって・・・で、扉の前に来たら話し声が聞こえて・・・いや。悪い。盗み聞きには変わりない。」

 言い訳したって何にもならないのだ。

「ア、アリアが俺のことをそんな風に思っていたなんて知らなかった。」

 思い返しても、頬が熱を帯びてくる。アリアが豊かな胸を上下させ、大きく溜息をついた。

「・・・お前に聞かせようと言ったんじゃない。これからも言うつもりはない。忘れろ。」

「忘れられない。」

「頼むから忘れてくれ。」

 本当に恥ずかしいのだろう、アリアは顔だけじゃなく全身真っ赤だ。顔を隠しても、その腕が真っ赤なんじゃ意味がないだろ。

「絶対に忘れない。一生覚えてる。」

「!!!!!」

 アリアが立ち上がった。何か言いたそうに口をパクパクさせるが、結局言葉がまとまらなかったらしく、そのままソファにボスンと腰を下ろした。胸が揺れた(しっかりと見た)。

「・・・リヴァイ、頼むよ。お願いだ。」

 心なしか、アリアの瞳に涙が浮かんでいる。そんなに嫌だったのか?でも、アリアが「頼む」と言ったのはそこじゃなかった。

「お前には幸せになって貰いたいんだ。お前の親友として、お前の幸福を心から願ってるんだ。・・・私じゃお前は幸せになれない。不幸にしてしまうかもしれない。・・・そんなことになったら、私は自分が許せない」

 アリアは何も分かっちゃいない。

「俺の幸せ不幸せをお前が決めるなよ」

「決めてなんかいない。予想できるから言っているだけだ。」

「その予想は絶対に当たらない。的外れすぎる。」

「的外れじゃない。現に私は・・・」

 俺はアリアの肩を掴んだ。鍛えているとは言っても、やはり女の肩らしく華奢だ。

「アリア。俺の幸福を心から願っていると言ったな。だったら、俺の妃になれ。俺は昔からお前がずっと俺の傍にいることを夢見て来た。」

「そんなの、今だってずっとお前の傍にいるじゃないか!何も妃にならなくたって、親友のままだって・・・

 アリアは何も分かっちゃいない。全然、何もだ。

 肩に置いた手をアリアの頬に当て直した。熱い。そのまま、俺は顔を近づけた。

 初めて触れる唇はとても柔らかかった。アリアの香り、アリアの体温。こんなに近くに感じたことは今までにない。

 アリアは剣を握らせたら右に出るものどころか左に出るものすらいないほどに強いが、素手でも俺はきっと敵わないだろう。それでも、アリアが俺を傷つけないことを知っていた。アリアに対して酷いことをしたとしても、アリアは絶対に俺に手を出さないと、俺は確信していた。それを俺は利用したのだ。

「ちょっ・・・・リ・・・・・・・!!」

 胸を押し返そうとする力は強かったが、俺はもっと強い力でアリアを求めた。唇の隙間に、舌を入れる。アリアの身体がビクッと跳ね、一瞬手の力が緩んだ。

 罪悪感はあったが、それよりも胸の高揚感が勝っていたのかもしれない。

 初めてのキスにしては長すぎる程アリアを求めてから、ゆっくりと唇を離した。思いのほか大人しかったので、アリアが観念したのかと思っていたが、そうじゃなかったようだ。

「こ、こんなこと、お前何を考えてるんだよ!こんなことされたら、・・・親友じゃいられなくなるだろう!」

 アリアは肩で息をしながら泣いていた。アリアの涙を見るのはこれで 2 度目だった。たったの 2 度目。それでも、俺は引くわけにはいかない。

「親友じゃなくなったってそれでいい。もう終わりだ。」

 アリアには世界の終わりのように聞こえたのだろうか。真っ赤だった顔から静かに色気が抜けて行く。拭ったばかりの頬に、また一筋の涙が流れた。俺が手を伸ばすとびくついたが、構うことなくアリアの涙を拭った。

「アリア。俺はもう、「親友」じゃ物足りなくなってる。お前を抱きしめたいし、キスしたいし、肌も重ねたい。あわよくば、俺の子を産んで欲しい。お前を妃にすることが、俺の幸せなんだよ。」

「そんな馬鹿みたいな話、信じられない。」

 相変わらずの石頭め。俺は思わず笑った。ああ、何で今笑うんだっていう顔だ。駄目だ、可愛い。この人類最強の女が可愛すぎる。キスしたら歯止めが利かなくなってきたのかもしれない。

「さっき俺のこと、世界で一番信じているって言ってなかったか?」

「そ!それとこれとは

「違わないさ。素直に信じろよ。俺のこと、愛してるんだろ?」

 アリアの顔が再びかぁーっと赤くなった。あはは。またしても笑ってしまった。

「・・・笑うことないだろう」

 上目遣いで睨んでくるアリアが愛おしくてたまらず、俺は再びキスをした。さっきよりも抵抗する力が格段に弱かった。

「俺の思いはもっと単純なんだ。単純にお前を愛しているから、お前を妃にしたいだけなんだ。絶対に大切にするから。どうしてもトラウマが邪魔をするなら、何時間だって隣に座って相手するから。」

 ね?とアリアに微笑を向けると、納得できなそうにじーっと見つめ返された。下を向いて小さな溜息をついてから、アリアは立ち上がる。

「・・・少し時間をくれ。」

 これは心が揺れ動いている様子。望みが出てきたのかもしれない。

「部屋まで送ろうか?」

 扉までついていって尋ねると、アリアは控えめに首を振った。

「そう。じゃあ、これで。おやすみ。」

 頬にキスを落とそうとしたが、すっと避けられてしまった。あ、いつもの冷ややかな瞳だ。

「まだ、何も答えてないし許してもない。そういうことはやめろ。」

 レースで縁取られた裾をふわふわと揺らし、アリアは暗い廊下を歩いて行った。アリアの姿が見えなくなるまで送ってから、俺も自分の寝室へと戻る。

 アリア、ちょっとは落ち着いたように見えたけど。

 

 

 

翌朝、アリアが俺の執務室にやってきた。

「おはようアリア!」

「おはようリヴァイ」

 想像と違って、いつもどおりのアリアだ。いつもどおり制服をかっちりと着込み、いつもどおり髪を頭の上でくくり、いつもどおり凛々しい笑顔。

「どうした?何か用?」

「ああ。まぁ。・・・今、時間いいか?」

 そう言ってアリアは部屋の中に入ってきた。

「昨日の話なんだが・・・その、わ、・・・私を妃に迎えるかどうするかという話」

 俺は立ち上がり、アリアの前へ歩み出た。心臓が早鐘をうつ。翠の瞳を左右に動かしてしばし逡巡してから、俺を正面から見据えた。何も迷いの無い瞳。全て決めてきたっていう顔だ。

「私がその話を受けるには、条件がある。」

「な、なに」

「ちゃんとプロポーズして欲しい。」

「・・・・え?」

 どんな無理難題を言われるのかと戦々恐々としていたのに、何ともまぁ、そんなものでいいのか。

「だから、その、・・・。昨日あれから考えたんだ。お前の昨日の話を受けることで、お前と私の関係は少し変わるが、それでも根本的な、・・・私がお前の傍にいて、ガウェインの補佐をするということは変わらない。だから、けじめを付けて欲しいんだ。けじめとして・・・」

 アリアが言い終わらないうちに、俺はアリアの前に跪いた。こうすると、アリアの方が少し背が高くなる。こっちの方が普段より身長が近いなんてちょっと滑稽だったが、今笑っては雰囲気が台無しだ。俺はアリアの白い手を取った。ちょっと剣だこが出来てはいるけれど、すべすべでさわり心地がいい。

「アリア・テオフィリア・ルクレール。私、リヴァイ・クラウディウス・レニエ・ラサラスは、あなたを一生涯愛し、一生涯あなたの傍にいることを誓います。だからどうか、私の妃になってください。」

 アリアの瞳が、まっすぐ俺を見ている。目を細め、少し頬を赤らめてアリアは言った。

「リヴァイ・クラウディウス・レニエ・ラサラス殿下。わたくしの命ある限り、あなた様の隣におりましょう。」

 プロポーズを受けてくれたアリアに微笑んでから、手の甲にキスを落とした。今回はアリアに拒絶されることはないようだ。

「アリア。好きだ。愛してる。」

「は・・・ちょっと待て!何を・・・ちょっと、リヴァイ!」

 立ち上がり、アリアの細い腰に手を回した。これから俺がするであろうことを察し、昨夜のように胸を押し返そうとするが、もう片方の手でそれを防ぐ。

「待たない。愛してる。」

 止まらない。アリア、お前が俺を受け入れてくれたのだから、止める必要はないだろう?

「リヴァイ!!まっ・・・待っ・・・・・・

 アリアの唇はどんな菓子よりも甘い味がした。俺にはこれがあれば、他にはなにもいらない。これからは、腹が減ったらアリアの唇を頂こう。俺の隣にいてくれるのだ、難しいことじゃない。

 ああ、どうしよう。止まらない。晴れて婚約状態とは言えるものの、まだ正式に婚姻を結んでいないのに最後までいってもいいのだろうか。でも今の俺の理性は完全に本能に負けている。

 貪るように口付けをしながら、アリアの制服のボタンに手を掛けた時だった。ノックする音と共に扉が開いた。

 アリアから唇を離すと、目の前には足。その足をたどっていくと顔が見えた。ガウェインとクレメンスだ。 2 人とも驚いた顔をしている。・・・そりゃそうだろう。

「・・・リヴァイ。正直に答えろ。この状態はアリアの同意あってのもの?」

「もちろん!」

「違う!」

 胸の下のアリアを見た。真っ赤だった。

「待てと言った!!お前が無理やり組み敷いたんだ!」

 ガウェインの顔が笑っていない。怖い。・・・でも、アリアの言葉を否定できない。

「・・・もう1つ聞く。君たちは結局婚約したのかな?」

「した!」

 この問いについては、自信を持って答えられる。アリアも何も言えないだろう。

 真顔のガウェインはアリアが反論しないことを確認すると、ぱっといつもの微笑に戻り言った。

「そうか、おめでとう!エリザもヒルダもきっと喜ぶよ。それではクレメンス、このことを公式に発表する手配を。結婚式は・・・そうだね、早い方がいいな。アリアの気が変わらないうちに済ませてしまおう。日取りについても調整しておいてくれるかい?」

「御意。」

「ああ、それとリヴァイ。いくら婚約したとは言え、手を出すのは結婚式の後にしておきなさい。僕はばれないようにしたけど。」

 ガウェインがニヤッと笑った。母上そっくりだ。

 俺も、兄上と義姉上のような、いや、それ以上に仲の良い夫妻になる。約束するよ、アリア。

 

2014 March 13 芹沢アツキ


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